会社の業績が良くなったり、節税のことを考えたりしたとき、役員給与を増やしたいと思う人も多いのではないかと思います。
でも、実際に役員(代表社員)の報酬をあげようと思っても、いつ、どのような手続きで給与を上げればいいんか分からず、困ってしまうと思います。
というのも、社長の給与は適切なタイミング、そして手順で増やしていく必要があり、間違った方法を選択してしまった場合、社長の給与が会社の損金にならなくなる可能性があります。
一人社長の合同会社の役員報酬を上げる大まかな流れは以下のようになります。
- 昨年度の決算日がくる
- 決算後3カ月以内に役員給与を決め、同意書(議事録)を作成し、新しい額の給与を支払う
- 増額した金額の給与が3回支払われた後に「被保険者報酬月額変更届」を年金事務所に提出する
今回は、そんな合同会社の一人社長の場合の役員給与の具体的な上げ方について、ステップごとに詳しくお話していきます。
【STEP1】役員報酬の金額を決める(決算直後頃)
役員給与を上げるためにまずやらなければならないことは、事業年度初月頃に役員報酬の額を決め、その内容を合意書などにまとめておくことです。
具体的には、「去年は月額給与が○万円だったけど、△万円/月に上げたい」ということを決めます。
一人社長の場合、会社の運営方針を決めるのも、役員給与の額を決めるのも自分だけで済んでしまいますので、昨年度の法人税額や、今後の事業活動を考えつつ、役員報酬の額を決めていきましょう。
【STEP2】同意書を作成する(決算直後頃)
新しい役員報酬の額が決まったら、その内容を同意書という形の書類にまとめておきます。
例えば、一人社長の合同会社の場合の合意書の文章は以下のようなものになります。
同 意 書
令和 ○年 ○月 ○日、当社本店において、下記のとおり決定した。
記
業務執行社員 〇〇〇〇 の役員報酬を、平成○年○月より、次のとおり決定する。
1.報酬金額 月額 ○○〇〇円
以上
上記について、決定したことを証するため、この同意書を作成し、次のとおり署名捺印する。
平成 ○年 ○月 ○日
〇〇〇〇合同会社
業務執行社員 〇〇〇〇 印(会社実印)
なお、一般的な社員の給料とは違って、役員報酬は決算から3ヶ月以内に変更しなければならないという決まりがあります。
(取締役の報酬等)
第361条 取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
出典)会社法361条
一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
三 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容
2 前項第2号又は第3号に掲げる事項を定め、又はこれを改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該株主総会において、当該事項を相当とする理由を説明しなければならない。
ですので、上記の書類に記載する日付は、事業年度が4月1日~3月31日までの場合、この書類の作成日は4月~6月の間(決算から3ヶ月以内)にし、増額した給与が支払われ始めるタイミング(給料日)も決算から3ヶ月以内にしておきましょう。
【STEP3】増額した金額で給与を支払う(決算から3ヶ月以内)

ここからはいよいよ増額した金額で給与の支払いを行っていきます。
前のページの書類に記載した給与額変更のタイミングで、増額した額で実際の給与の支払いを行います。
例えば、前のページの書類で4月分から役員給与を増額すると決めた場合、それに従って4月の給与支払日から増額した役員給与で支払いを行います。
ここでのポイントは、各種控除内の所得税の源泉徴収額については給与を増額した月から控除額が変わってきますが、住民税は昨年度の収入を元に計算されているため金額の変更はありません。
健康保険や年金については、以下のステップで紹介する「被保険者報酬月額変更届」の手続きのタイミングによって控除額のタイミングが異なってきますので、そのタイミングについては、以下のステップの内容を御覧ください。
具体的な給与の仕訳のやり方については、こちらの記事が参考になると思います。
>>【給与や賞与】役員報酬額の決め方や毎月の給与明細の作り方と仕訳例まとめ
【STEP4】被保険者報酬月額変更届を提出する
役員報酬を増額変更した給与を支払い始めてから3回目の給与支払いのタイミング(3ヶ月後)で、社会保険料納付額を変更するための「被保険者報酬月額変更届」を提出していきます。

(1)被保険者及び70歳以上被用者の報酬が、昇(降)給等の固定的賃金の変動に伴って大幅に変わったときは、毎年1回行う定時決定を待たずに標準報酬月額を見直します。この見直しによる決定を随時改定といい、次の3つの条件を全て満たす場合に行います。
引用)月額変更届の提出|日本年金機構
(ア)昇給又は降給等により固定的賃金に変動があった。
(イ)変動月からの3か月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた。
「被保険者報酬月額変更届」は以下のような書類のことで、変更内容を記載後、年金事務所の方に提出していきます。

この書類はお近くの年金事務所の窓口で無料で貰うことができますし、または下記のHPからダウンロードすることも可能です。
実際の社会保険料の控除額が変更となるのは「賃金変更から3ヶ月後(上記書類提出)の翌月」からとなります。
ですので、社長個人の給与明細の社会保険料の控除額の変更は給与額が変更となってから4ヶ月後となります。
そして、会社が預かった分の社会保険料(個人負担分)と、会社が支払う社会保険料(会社負担分)の支払いは、社会保険料の支払いは翌月払いとなっているため、賃金変更から5ヶ月目になります。
ですので、4月に役員報酬を変更した場合の社会保険料の変更スケジュールは以下の通りとなります。
- 4月
→役員報酬の支給額変更(支払給与額、所得税額が変更) - 6月
→給与額が変更されてから3回目の給与支給が終わったら、 「被保険者報酬月額変更届」 を提出 - 7月
→役員報酬の支給額変更から4回目の給与から、個人負担分の社会保険料の額(控除額)が変更となる。 - 8月
→社会保険料(個人負担分、会社負担分)の実際の支払額(年金事務所から送られてくる請求書の額)が変更となる。
被保険者報酬月額変更届の具体的な書き方

被保険者報酬月額変更届の上段は、会社の情報を記入していきます。
- 事業所整理記号
→社会保険料関係の書類に記載されている番号を記入します。分からなければお近くの年金事務所で聞いてみましょう。 - 事業所所在地
→会社の住所を記入します。 - 事業所名称
→会社名を記入します。 - 事業主氏名
→会社社長の名前を記入し、会社実印を押印します。 - 電話番号
→会社の電話番号を記入します。 - 社会保険労務士記載欄
→いなければ無記入でOKです。

次に、被保険者報酬月額変更届の中段を記入していきます。
- 被保険者整理番号
→健康保険被保険者証の番号順に印字されています。 - 被保険者の氏名
→被保険者の氏名(カタカナの場合もあり)が印字されています。誤っている場合は「氏名変更(訂正)届」(日本年金機構のホームページでダウンロード)を提出しましょう。
>>被保険者の氏名に変更があったとき|日本年金機構 - 生年月日
→被保険者の生年月日が印字されています。ハイフンの前の数字は年号を表しており、「5」が昭和、「7」は平成、「9」は令和となります。誤っている場合は「生年月日訂正届」(日本年金機構のホームページでダウンロード)を提出しましょう。
>>被保険者の生年月日に訂正があったとき|日本年金機構 - 改定年月
→標準報酬月額が改定される年月を記入します。具体的には、変動後の賃金を支払った月から4カ月目が改定年月に記載する日付となり、例えば、令和元年4月に給与を増額した場合、令和元年7月が改定年月となります。 - 従前の標準月額
→現時点で決定している標準報酬月額(500,000円の場合は「500」)が記載されています。ちなみに、健康保険と厚生年金保険では標準報酬月額の上下限額が異なるため、それぞれ別の数字が記載されていることもあります。 - 従前改定月
→「⑤従前の標準報酬月額」が適用された年月を記入します。通常の場合(昨年から賃金変動がなかった場合) 、従前改定月は昨年9月となります。 - 昇(降)給
→昇給(または降給)のあった月の支払月を記入し、該当する区分を〇で囲みます。今回は役員給与を増額するので、増額した最初の月を記入し、昇給の方に○をします。 - ー
- 給与計算の算定基礎日数
→給与計算の算定日数とは、その報酬の支払対象となった日数のことを指します。月給者であれば暦日数、日給・時給者は出勤日数を記入します。例えば、毎月15日締切、当月25日払いの場合、4月は3月16日から4月15日までの「31日」と記入します。なお、月給者で欠勤日数だけ給与が差し引かれている場合は、就業規則等に定められている日数から欠勤日数を差し引いた日数を記入します。 - 通貨によるものの額
→4月、5月、6月に通貨で支払われた報酬(基本給や通勤手当などの各種手当も含む)をそれぞれの月に記入します。ただし、賞与、皆勤賞、永年勤続賞、慶弔費、第入り袋などはこの欄に記入する額に含みません。なお、さかのぼって昇給差額が支給された場合は、その額も合わせて記入し、8の遡及支給額にその旨を記入します。 - 現物によるものの額
→4月、5月、6月に食事、住宅、定期券などの現物給与の支給がある場合に金銭に換算して記入します。また、現物支給がない場合は0を記入します。なお、通勤定期券を現物で支給している場合は、通勤定期券代を月数で割った1ヶ月分の額を記載します。 - 合計
→各月の⑩と⑪の合計額を記入します。 - 総計
→3ヶ月分の報酬の総計を記入します。 - 平均額
→⑬の金額を3で割った数字を記入します。 - 修正平均額
→3ヶ月以前にさかのぼって昇給したことにより、4月から6月の報酬額に該当差分が含まれている場合は、差額分を除いた3ヶ月分の平均額を記入します。昇給などがない場合は記入不要です。 - 個人番号(基礎年金番号)
→70歳以上の被用者の人のみ記入します。個人番号の場合は本人確認を行った上で記入しましょう。なお、基礎年金番号を記入する場合は、年金手帳等に記載されている10桁の番号を左詰めで記入します。 - 備考
→当てはまる場合は○をつけます。今回は「昇給・降給の理由」というところに○をつけましょう。
上記の書類に記入できたら、書類を封筒に入れ、郵送で事務センター(事務所の所在地を管轄する年金事務所)に送ります。

今回の場合、事前に年金事務所に役員給与を上げる事に関する相談に行っていたため、書類の送付先が書かれたシールを事前に受け取ることができました。
最近では、最寄りの年金事務所でこういった書類の受付入力処理が行われるのではなく、別の事務センターの方で入力処理が行われているそうです。
最寄りの年金事務所に書類を送っても、そこからまた事務センターの方に送る形になるため、今回受け取ったシールは事務センターの住所が書かれているものになっています。
お疲れ様でした。
これで、合同会社の一人社長の役員給与を上げるための手続きは完了です。
最後に一言
今回は、【合同会社】一人社長の役員報酬(給与)の増やし方とその手続き手順についてお話しました。
役員報酬の増額は決算(期首)から3ヶ月以内がルールになっていますので、そのタイミングで手続を進めていきましょう。
税金の源泉徴収や社会保険料の控除など、変更するタイミングがバラバラなので少し混乱するかもしれません。
でも、一つ一つ丁寧に調べていけばそこまで難しいものでは有りませんので、是非参考にしてみてくださいね。
それでは!